完全殺人奪取計画#0〜6

 まずはこの姫事絶対値の新曲の題名と歌詞を知った時、違和感の塊が上手く飲み込めなかった。殺人計画なのか奪取計画なのか。

 歌詞はわかりやすい。完全殺人計画と愛するが故に殺したいけど苦しんでも死なせないほどの愛情。自分だけのものにしたいから計画したのか。誰にもそんなふうに読み取れるだろう。

 しかし「奪取」は何にかかっているかが見えて来ない。何を奪うのか。命のこと?計画を誰かから奪った?相手の計画を奪って逆に殺してやったのか?わからない。まあそんなことはふと頭を過っただけで、フリは可愛いし音も面白いその曲をただ楽しんでいた。

 そんな考えも頭から完全に消え去った時に発表されたのが本著 一ノ瀬恵麻著note版「完全殺人奪取計画」だ。もちろん前出の曲をテーマに書かれた作品だと著者は言っている。今はまだ途中の段階だけど読んだところまでの感想を。



 物語は主人公「渡辺詩穂」の1人語りで進む。幼少期から高校生に至るまでの辛い家庭環境の話は著者の自伝(これも過去にnoteに掲載)に通ずるものがあり、読み始めて間も無く著者と主人公が同一人物かのように思え、心に重石を抱えながら読み進めることとなる。


 #1のラストセンテンス『背中で煙草の火を消される回数を数えるのをやめた頃、私は彼に出会った。』この一文に戦慄が走る。悲劇が終わり希望が見えたかのように思われるが、実のところ更なる絶望の始まりを予感させる。これ以上の悲しみがあるのかと頁をめくる指を鈍らせる。

 

出会った「リョウ」に電話で、自身の見せたくなかった現状を語る場面で『そしてもう意味はないな、と思いながらも慎重に言葉を選びながら、私はリョウに話した』とある。これは主人公の冷静さ、そしてそれよりも圧倒的に身に染み付いた諦念という心情を表してるように感じた。

 相手のリョウも謎めいた男だ。頑なに自分をの本心を見せようとしない。かと言って詩穂を騙しているわけでも、都合のいい浮気相手のような存在としておいているわけでもなさそうだった。そこに関しては先程公開された#7で見えてきたことで、また次の感想文で語ることにする。


 #6からは一気に話の様相が一変、計画が動き始める。殺害方法、死体遺棄、冷静に考えて実行に移そうとする。好きなのに殺したい。好きだから殺したい。そういう思いは経験がないのでわからないが、『あの日、リョウがそういうとこ好きだな、って言ってくれた時何かがストンと落ちた気がした。』『私の感情に凪がやってきたのはあの夜だった』という言葉には強い共感を覚えた。僕自身の事を言うと、「熾火」のような感情が薄い。後ろ髪をひかれることなくスパッと自ら切り落とすことが、今までの人生でも多かった気がする。流石に殺害計画は考えた事は無いが()。それだけ詩穂にとっては依存の度合いが別格なのだろうと想像した。

 

 #7からはリョウの視点で物語が描かれ、立体的に全貌が判明していくのだろう。この後も感想を綴って行こうと思う。 了