Repeat negative morning #5

 『何者にもなれないE子さん』

 

タイトルから連想される文学・映画など私が連想できずにいると、友人が『輪るピングドラム』という10年ほど前のテレビアニメ作品があり、そのキャッチコピーが「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」でリンクするのではないかと教えてくれた。Wikipediaを調べてみると次のようなことが書かれていた。


 『キャッチコピーは「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」、「僕の愛も、君の罰も、すべて分け合うんだ」で、「何者にもなれない」はキーワードである「生存戦略」や「デスティニー(運命)」とともに作中キャラクター達によって度々言及されている』


 うーむ。。。なんかピンと来ないな。そうかもしれないけど今までのしっくりする考えには至らず、背景の出典は不明のまま感想を綴る事にする。

 

 

 連作で初めて朝から物語が始まる。5話通してみるととても新鮮で爽やかに感じるが、主人公E子が着ているのが喪服ということはそういうことだ。喪服とアイドル衣装。凄まじい対極ながら同一人物であろうE子。心の葛藤を表しているのだろう。悩み苦しむ様子の喪服E 子に対し全てを見透かしたような、ともすればバカにしたような発言を繰り返すアイドル衣装のE子。いや、こちらは『ゆうら』と呼ぼう。

 思い悩み、死をも考えるE子に対しゆうらはステージの上から辛辣に、そして苛烈に捲し立てる。

 


 『構って欲しいだけのツイートに正論で返されて、この世から消える勇気すらないことも見透かされて、傷ついて、その状況に酔ってるだけ。』

 『人とは違う不幸な私とか思ってるかもだけど、その考えがもう人並みなんだって。ましてや他人はあんたの不幸に興味はない!』

 『それに気づいてるのに現実逃避の嘘ばっか吐いて、自分の言葉には目を逸らして、ただ臆病なだけじゃん!!』


 ステージ上に今度はE子がいる。『違う!』そう叫んだものの二の句が継げない。するとフロアにいるゆうらが諭すように優しく語り始める。

 

 『でも私の痛みは本物だよ。誰からも必要とされないのは孤独だよね。死にたくなるよね。ずっとそうだったから。鈍感なふりしてる方が楽だもん。顔の見えない嘘は心地いいもん。』

 『だけど…だけどその孤独があるから誰かに憧れるんだ。あんたの孤独も憧れもあたしなんだよ』

 

 このシーンでゆうらの手にはスマホが握られている。そうか、E子でありゆうらは今初めてちゃんと葛藤に向き合って臆病な自分と対峙してるのか。ここから二人は会話を始める。『ちゃんと向き合えバカ』と言われて初めて顔を上げ真正面に向き合って自らの望みを語るE子。

 『誰かに必要とされたい。何かをもらって何かを与えられるような存在になりたい。自分の存在に気づいてもらいたい!! できるかな?』

 無言で肯くゆうらの口元には微かに笑みが浮かんでいる。これで大丈夫。

 


 そして冒頭の朝のシーンへと戻ってくるのだが、起き上がったE子は朝日を見上げゆっくりと微笑む。自分の弱さや孤独を認め、誰かに必要とされる何者かになれたいい笑顔だ。

 

 

 この#5はRepeat negative morningの歌詞をなぞらえているのだろう。文字にするとよくわかる。小さな頃から養成所に通ったり子役から芸能の仕事をしていたり。そういった一部のエリートアイドルとは違い、様々な思いを抱え集まった5人の姫事絶対値の等身大の楽曲。

 今までそれぞれに悩み、苦しみ、傷つき、足掻き。消えてしまいたくなるような夜も数えきれないほどあったのだろうと想像し悲しくなるが、5人の悲しみはそんなものと比べ物にならないくらいに壮絶なものだと思いまた涙が流れる。

 ただ、苦しい悲しいだけを背負って続けてきたわけでは決してない。その負の感情を超えてあまりある喜びや楽しみ。たくさんの歓声と愛を全身で受け止めてきたからこそ、ずっと5人でやって来れたはずだ。ファンだけではなく家族、友人、スタッフ、関係者。全ての想いが合わさって姫事絶対値を包み込んできたのだと思い胸が熱くなった。

 

 

 #5が終わると同時にフィナーレの#5.1がイントロと同時に幕を開ける。作品群全体の検証とともにまた次の機会に語ろうと思う。まだまだ語れることが嬉しい 了